COLUMNコラム

暮らしの愛着を紡ぐ建具

鷲尾ウッドワーク株式会社 常務取締役 鷲尾雅徳さま

建具は生活の必要要素

柱と梁だけではただの空間なので生活できないですよね。床と天井の空間に仕切りをつくれば部屋として使えます。トイレも扉があって、はじめて機能的になります。このように領域と領域を曖昧に緩やかに仕切ったり壁の要素も含まれる建具には、暮らしを成り立たせる必要な要素だと考えられます。ただ、建具という言葉自体があまり使われなくなっているので、ピンとこないお客様が多いかもしれません。「ドア」「戸」「扉」、そういった表現の方がわかりやすいかもしれませんね。

柔らかさ、やさしさ

建具と聞いて馴染みがない方でも障子と聞けばイメージがつきやすいと思います。障子は代表的な建具です。仮に和室が障子ではなくドアだったら光を遮断してしまいますが、障子は光を遮らずに柔らかい光を差し込ませることができます。ただその障子が使われる和室自体が最近は少なくなりました。オープンな空間に構成された住宅が増えていますからね。よくミライエの社長が「リビング、ダイニング、スタディルームなど、言葉で空間を考えてイメージをつけると、部屋名だけで住空間が出来上がってしまう。本当に大切なのは、どのように生活するかであって、言葉としての部屋の名称ではないはず」と言っていますが、「建具」という言葉だけで切り取られるのは、我々からするとちょっと寂しいですね。暮らし方を考えた先に機能や空間が生まれ、その領域を開いたり閉じたり仕切ったりするのが建具の役割だと思っていますから。

木製建具のよさ

最近の既製品はデザインも品質もよくできていると思います。それでも私たちのような木製建具を専門にやっている会社からすれば、既製品には負けないよさもあります。既製品はあらかじめ決まった寸法と納まりになりますから製品に応じてプランを考えていくことになりますが、造作建具の場合は、プランに応じて製作していきますので、寸法や素材は全て自由となります。「あと3センチ」「ここは引き戸で」などの要望もプランの組み立ての中で可能となっていきます。また木という素材は経年変化がありながら、調整して手入れをすることで使い続けることもできます。こういったことも既製品にはない良さのひとつではないでしょうか。

品質への責任と信頼

私どもの仕事柄、実際に生活されるお客様とお会いする機会は少ないのですが、建築会社側から平面図などを一通りいただいて、こんな動線で生活するのかなと想像を働かせ、意匠的な仕上げと形状の考えを理解するようにしています。 当社の職人は現在10人ほどいますが、手加工の現場を積まないと職能技術は向上しません。たとえばカンナ。刃の出し方一つで仕上がりや木肌が変わるのです。また木製である以上、木が伸びたり縮んだりするのは仕方のないことです。かと言ってそれだけで済ますわけにはいきません。木は曲がりたい方向が決まっているので、制作段階からあらかじめ予測をして使う場所を考えておく必要があります。

自分たちの手がけたものがお客様の手に渡って使われていく。そう考えるとこの品質でこの仕上がりでお届けしていいのかどうか、自らに問いかけ、自分たちを律しながらつくらなければなりません。建具をつくるということは、つくり手の気持ちまで含めてつくることなのだろうと思います。そうして出来上がったモノを喜んでいただければ、次の機会に繋がり私たちの成長にも繋がるだろうと思っています。


鷲尾雅徳 常務取締役

鷲尾ウッドワーク株式会社
札幌市東区北48条東18丁目1-15
TEL011-782-2094
http://www.washio-wood.co.jp

1972年創業の木製建具・造作家具、木枠の製造製作会社。
一貫した自社工場での製造製作を基本としており、伝統の和室建具の仕上がり品質は、設計事務所、工務店、住宅会社など幅広い得意先から信頼を受けている。