COLUMNコラム

目に見えないことへの感謝

この地に暮らしていく第一歩として

あるお客様の地鎮祭でのことです。それは真夏のとても暑い日でした。施主様の奥様が、突然体調不良を訴え座り込んでしまったのです。その時「真夏の地鎮祭で、立ちっぱなしは危ない」ということに気づきました。以来、私はお客様目線で物事を考えるようになったのです。ひとつは施主様への気遣いです。参列者分の椅子や飲み物、コップの用意に始まり、記念撮影用の日付入りプレートなども用意しています。もうひとつは建築会社への配慮です。これから工事を始めようとする忙しい建築会社の負担にならないよう、祭壇の設営にはじまり、身一つで現地にお越しいただいてもいいような、全ての準備を当神社で行うのです。これらのことを継続していたら、自然と依頼が増えるようになりました。何とかスケジュール調整をして、依頼は決して断らないよう今日までやっています。
神様に聞こえるように 参列者にもわかるように

一般的な神主へのイメージとして「偉そう」とか「時間にだらしない」などの声を聞くことがあります。祭事が持つ固有の厳粛さが、そういったイメージを助長させているのかもしれませんが、実際にそうだとしたら直していくべきです。私は「お客様に喜ばれるためにはどうしたらいいか」を常に考えています。厳粛さを求めるところは求めながらも、笑いがあったり柔らいだり、なごやかな地鎮祭のほうがいいじゃないですか。それと「何を言っているか聞き取れない」というお話もよく聞きます。声が小さいのでしょうね。これではいけません。当神社の神主にも言い聞かせていますが「神様に聞こえるような声」で「参列している皆さまにも聞こえるような大きな声」で祝詞を読むように、と。そして私たちは式次第を読むことにしています。その意味がわからなくとも、ああ、いまこれを行っているとわかれば、参列している皆さま達と少しでも一体感がうまれるじゃないですか。

目に見えないことへの感謝

地鎮祭は、土地に汚れがあると災いが起きてくるので、土地に鎮まる神様にご挨拶とことわりを入れ、土地をお清めして工事作業に支障が出ないよう皆様方でご祈願する祭事です。いわば家づくりのスタートライン。一方で暮らし始めてからは、神棚を祀っている方々も多いことでしょう。神棚に手を合わせて何かのお願いをする。それは神様にお願いをしているということです。私がいつもたとえて言うのは、神様にお願いばかりすると「借金」がかさむようなもので「貯金」をするように神様に挨拶・お声がけをしたほうがいいですよ、と。たとえば朝「今日も1日元気で過ごせますように」とお願いをしたとする。そして夜就寝前に「今日も無事で1日ありがとうございました」とお礼をする。これで朝の「借金」が夜の「貯金」で相殺されるわけです。お願い事ばかりすると、いざという時や自分の力が弱まった時、神様が守ってくれないかもしれないので、普段から「貯金」を増やすように神様へお礼や挨拶をするとよいのです。長い人生の中には、自分の力だけではどうしようもないこともあるはずです。目に見えないことに感謝する心が、物事がうまく運ぶ要素のひとつのように思います。


インタビュー協力

菊池 重敏さん
神道大教 札幌八幡宮宮司

 

 


札幌八幡宮
https://sapporohachimangu.com/

北広島市輪厚中央5丁目3番16号
お客様視線の対応が評判を呼び、現在では数多くの地鎮祭・上棟式・新宅祭の依頼を受けている。また学問の神様である菅原道真公を祀った北海道で最初の神社。そのため受験シーズン時には道内各地から多数の受験生が訪れることでも名高い。